木材商社の営業を3年やって気づいた、"値段で戦わない"営業の本質
2026-04-18 公開
「また値下げか」
木材商社の営業をしていたとき、何度この言葉を聞いたかわからない。
木材はどの商社も同じメーカーの同じ商品を売る。品質も大差ない。だから顧客は「もっと安くしろ」と言う。それが当たり前の世界だった。
でも、私は値下げ以外の方法で、低迷していた既存顧客の売上を前年比200%まで回復させた。
どうやったのか。正直に話す。
木材商社の営業って、どんな仕事?
まず知らない人のために、木材商社の営業について説明する。
木材商社は、木材メーカーから仕入れた建材・木材を、工務店・建設会社・ハウスメーカーなどに販売する仕事だ。扱う商品は2×4材(ツーバイフォー)、集成材、合板、フローリング材など。
新卒で入ってすぐの私は、先輩に連れられて工務店への飛び込み営業から始まった。工務店の社長に会うためにアポなしで訪問し、「断られる」「怒鳴られる」を繰り返す毎日だった。今思えばあれが「断られることへの耐性」を作ってくれた。
顧客は個人事業主の大工さんから、年商数十億の中規模工務店まで幅広い。年齢層も高く、「若い営業マン」というだけで舐められることも多かった。「うちはもう取引先が決まってるから」と門前払いも日常茶飯事だった。
「また値下げか」の世界
木材業界の価格競争は本当に激しい。
なぜなら、商品の差別化がほとんどできないからだ。私の会社が売るフローリング材も、競合他社が売るフローリング材も、同じメーカーの同じ商品だ。「うちの商品が優れている」という説明ができない。
そうなると顧客は何で選ぶかというと、「値段」だ。「○○社より10円安くしてくれれば買う」「もう1割引けるなら考える」。こういう交渉が毎週のように続く。
先輩社員の中には「値段で取れなければ取らなくていい」という人もいた。「利益の薄い受注を取っても意味がない」というロジックは正しい。でも若手の私は「受注できない自分の無力さ」を強く感じていた。
そんな中で転機が来た。あるベテラン顧客(工務店の社長)から言われた一言だった。
「価格じゃなくて、あんたが信頼できるかどうかで決めてるんだよ」
この言葉が、私の営業スタイルを変えた。
値段で戦わない営業が実践した3つのこと
① とにかくレスポンスを速くした
顧客から連絡が来たら、どんな些細なことでもすぐに返す。「確認して折り返します」ではなく、「今すぐ動きます」を体現する。
木材業界は年配の顧客が多く、「若手は使えない」という先入観がある。それを覆す一番の武器が「レスポンスの速さ」だった。「あいつに頼むと早い」という評判が広がると、価格よりも信頼で選ばれるようになる。
具体的に何をしたかというと、「メールの返信は30分以内」「電話は2コール以内で出る」というルールを自分に課した。今では当たり前のことに聞こえるかもしれないが、当時の木材業界では「返信が遅い」が当たり前だった。それだけに、速いレスポンスは際立つ。
ある工務店の社長から「今週中に2×4の100本、入れられるか」と急ぎの電話が来たとき、私は30分以内に「在庫確認しました。入れられます。明後日の午前中でいかがですか」と返した。社長は「早いな。じゃあ頼む」と即決した。後から聞いたら「他の業者は午後になっても返事が来なかった」とのことだった。
「あいつに頼むと早い」——この評判が広がった瞬間、価格の話は出なくなった。
② クレームを最大のチャンスと捉えた
木材は生きている素材だ。同じメーカーの同じ商品でも、品質にムラがある。だからクレームが多い業界だ。
私はクレームが来たとき、まず上司への報連相を徹底し、スピーディーに動いた。謝罪するだけでなく、「どうすれば再発を防げるか」を顧客と一緒に考えた。クレーム対応で誠実に動くと、その後の関係が格段に深まる。「この子なら信頼できる」と思ってもらえたとき、価格の話は出なくなる。
実際にこんな経験があった。納品したフローリング材に反りが出て、大工さんに「施工できない」と怒鳴り込まれたことがある。私はすぐに現場に飛んで謝罪し、翌日中に代替品を手配した。「一度やらかしたら終わりだ」と思っていたが、その後その大工さんからの発注が倍以上に増えた。後から「あれだけ素早く対応してくれたのは初めてだった」と言ってもらえた。
クレームは「信頼を失う場面」ではなく「信頼を証明する場面」だ。誠実に速く動ける人間は、クレームで差をつけられる。
③ 「情報」を持っていく営業をした
ただ商品を売りに行くだけでなく、「最近こんな木材が流行っています」「今後この材料は値上がりしそうです」という業界情報を持っていった。
顧客にとって役立つ情報を持ってくる営業は、「また話を聞きたい」と思ってもらえる。これが長期的な関係構築の基本だ。
木材業界は相場の変動が激しい。ウッドショック(新型コロナ後の木材価格高騰)のような動きは、顧客の仕入れ計画に直接影響する。「この木材、来月から値上がりしそうな情報があります。今のうちに多めに仕入れておきませんか」というタイミングの情報は、顧客にとって「お金に直結する情報」だ。
こういう情報を持ってくる営業は、「用があるときしか来ない業者」ではなく「情報源」として認識してもらえる。「○○さん、最近の建材の動向どう?」と先方から電話が来るようになったら、関係は完全に逆転する。
結局、営業の本質は「信頼残高」を積み上げること
値段で戦うのは、信頼残高がゼロのときだ。
レスポンスの速さ、クレーム対応の誠実さ、役立つ情報の提供。これを積み重ねると、顧客の頭の中に「信頼残高」が積み上がっていく。そうなると、「少し高くてもあいつから買う」という関係になる。
この「信頼残高」という考え方は、木材商社での3年間で身についたものだ。当時は明確に言語化できていなかったが、今振り返ると「信頼を積み上げること」に集中していた。
この経験が転職後にも活きた
これは木材商社での経験から学んだことだけど、その後の電機メーカーでも、営業代行でも、教育業界でも、ずっと使い続けている考え方だ。
電機メーカーで量販店バイヤーと向き合ったとき、「メールの返信は翌日ではなく当日中」「クレームが来たら即日対応」を徹底した。業界は全く違っても、「レスポンスが速い営業」「クレームに誠実に動く営業」は、どこでも評価された。
営業代行では複数のクライアントを掛け持ちするため、情報収集の重要性が更に高まった。「このクライアントの業界で今起きていること」を常にアンテナを張って把握し、商談に活かすことが、クライアントからの信頼につながった。
営業の本質は、商材が変わっても変わらない。 信頼を積み上げることだ。
まとめ
値段で戦わない営業が実践した3つのこと。
- レスポンスを速くして「信頼の一番手」になる
- クレームを誠実に対応して関係を深める
- 役立つ情報を持っていく「情報営業」をする
これらは木材商社での話だが、業界が変わっても通用する考え方だ。価格競争に巻き込まれていると感じている営業職の人は、まず「信頼残高を積み上げる」ことから始めてほしい。
「値段じゃないと思ってもらえる関係」は、一日では作れない。でも毎日の積み重ねで、必ずできる。私の前年比200%回復も、一夜にして起きた話ではなく、半年以上の積み重ねの結果だった。
そして、この「信頼構築力」は、転職市場でも確実に評価される。面接官に「前の会社でどんな成果を出しましたか」と聞かれたとき、私が話すのは数字だけではない。「なぜその数字が出たか」「どうやって信頼を積み上げたか」という話こそが、次の会社でも再現できる人間だという証明になる。
※本記事は筆者の実体験をもとに作成しています。会社名・個人名・特定できる情報はすべて匿名化しています。
