「106万円の壁」は2026年10月に撤廃予定|でも世帯の手取りが急に変わるとは限らない
2026-08-22 公開
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この記事はこんな人向け
- 配偶者がパート・アルバイトで働いている営業マン
- 転職で年収を比べるときに世帯の手取りまで考えたい人
- 店長・教室長などパートやアルバイトを雇う立場にいる人
2026年10月、社会保険の「106万円の壁」が撤廃される予定だ。
この話題はニュースでもよく取り上げられるが、「10月から急に手取りが減る」という理解は、かなり不正確だ。私も最初はそう思っていた。調べてみると、実態はもっと地味な制度整理に近い。
最初に正直に書いておく。この制度変更の主役は、正社員の営業職ではない。直接関わるのは、パートやアルバイトとして扶養の範囲内で働いている人たちだ。
それでもこのブログで扱う理由は2つある。
ひとつは、配偶者がパートで働いている場合、世帯の手取りを確認するきっかけになるからだ。転職で「年収が30万円上がる」と考えるとき、家計は世帯単位で回っている。
もうひとつは、営業職はいずれ「人を雇う側」に回ることがあるからだ。店長、教室長、マネージャー。シフトを組む立場になった瞬間、この「壁」は自分の業務の問題になる。
私は4回転職して、木材商社・電機メーカー・営業代行・塾・イベント会社を渡り歩いてきた。あらかじめ書いておくと、私自身は扶養の範囲内で働いた経験はない。だからパート側の実感は語れない。制度の部分は公式資料の要約に徹し、私が書けるのは「雇う側から見た景色」と「転職で年収を比べるときの考え方」だけだ。
撤廃されるのは「賃金要件」だけ
今の制度では、パート・アルバイトが社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するかは、次の条件で決まる。
| 要件 | 内容 | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 賃金 | 月額8.8万円以上(年収約106万円) | 撤廃予定 |
| 労働時間 | 週20時間以上 | 残る |
| 雇用見込み | 2か月を超える見込み | 残る |
| 学生 | 学生でないこと | 残る(例外あり・後述) |
| 企業規模 | 従業員51人以上の企業 | 残る(2027年から段階的に縮小) |
撤廃されるのは「月額8.8万円以上」という賃金の条件だけで、残りはそのまま残る。
なお「2026年10月」という時期についても、現時点では撤廃予定という書き方が正確だ。法律上は施行日が政令で定められる形になっているため、断定は避けたい。
なぜ「急に変わる」わけではないのか
ここが一番大事なところだと思う。
厚生労働省は、賃金要件を撤廃する理由をこう説明している。最低賃金が時給1,016円以上になったため、週20時間働けば月額8.8万円は自動的に超える、と。
つまり、こういうことだ。
- 週20時間以上働いている
- 勤務先は従業員51人以上
この2つを満たす人は、2026年10月を待たずに、すでに月8.8万円の条件も満たしている。だから賃金要件は、もう実質的な意味を失っている。
だとすると、「10月から新たに加入することになって、突然手取りが減る」という人が大量に発生する制度変更ではない。すでに起きていたことに、制度の文言を合わせる整理に近い。
ではこの改正で意味がなくなるのは何か。年収を106万円以下に抑えるための就業調整だ。これまで「106万円を超えないように」とシフトを削っていた人にとっては、その調整に意味がなくなる。ここは実質的な変化と言える。
確認すべきなのは金額ではなく、この4つ
家計への影響を知りたいなら、年収の金額を眺めるより、次の4つを確認する方が早い。
- 週の所定労働時間(20時間以上か)
- 勤務先の企業規模(従業員51人以上か。2027年以降は基準が下がる)
- 雇用見込み(2か月を超えるか)
- 学生かどうか(休学中・定時制・通信制は例外あり)
「106万円」という数字を追いかけるのではなく、この4項目で判定する。制度が変わっても変わらない考え方なので、覚えておくと使い回せる。
「加入したら手取りが減る」も、実は人によって違う
ここも誤解されやすい。私も取り違えていた。
社会保険に新しく加入したときの手取りの変化は、加入する前にどういう状態だったかで正反対になる。
① 配偶者の扶養に入っていて、保険料負担がゼロだった人
新たに加入すれば保険料の負担が発生するので、短期的な手取りは減る。
② すでに国民年金・国民健康保険を自分で払っていた人
こちらは手取りが増える場合がある。理由は、国民年金・国保は全額自己負担だが、社会保険は会社が保険料の半分を負担してくれるからだ。
つまり同じ「社会保険に加入する」という出来事でも、加入前にどういう状態だったかで、手取りは減ることも増えることもある。「加入すると誰でも損をする」わけではない。
ここで具体的な金額を出したいところだが、実際の増減は月給だけでなく、年齢や住んでいる自治体によって変わる(国民健康保険料は自治体ごとに計算方法が違う)。だから一律の例を出しても、自分の場合に当てはまるとは限らない。
厚生労働省の社会保険適用拡大の特設サイトに、加入した場合の手取りの変化を試算できるツールが用意されている。自分の条件で確かめるのが確実だ(出典:厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」)。
さらに長期で見れば、厚生年金に加入すれば将来の年金額は増え、病気やケガで働けなくなったときの傷病手当金の対象にもなる。短期の手取りと、長期の保障はトレードオフの関係にある。どちらを重く見るかは、年齢や家庭の状況で変わる。
企業規模の基準は、これから10年かけて下がっていく
「壁が週20時間だけで決まるようになる」という説明を見かけるが、それはもっと先の話だ。2026年10月時点では企業規模の条件が残る。
企業規模要件は次の日程で段階的に縮小され、最終的に撤廃される予定だ。
| 時期 | 対象となる企業 |
|---|---|
| 2027年9月まで | 従業員51人以上 |
| 2027年10月 | 従業員36人以上 |
| 2029年10月 | 従業員21人以上 |
| 2032年10月 | 従業員11人以上 |
| 2035年10月 | 企業規模要件を撤廃 |
週20時間だけで決まる制度になるのは2035年、つまり約10年後だ。それまでは「週20時間 × 勤務先の規模」の組み合わせで判定される。
よく引用される「新たに約200万人が加入対象になる」という厚生労働省の試算も、賃金要件の撤廃だけの人数ではない。企業規模要件の撤廃・賃金要件の撤廃・個人事業所の非適用業種の解消を合計した推計だ。ここを混ぜると影響を過大に見積もることになる。
「社会保険の壁」と「税金の壁」は別物
壁の話がややこしいのは、社会保険の話と税金の話が、どちらも「年収の壁」と呼ばれるからだ。分けて整理しておく。
社会保険の側
- 106万円:本人が加入するかの賃金要件 → 2026年10月に撤廃予定
- 130万円:扶養から外れるかの認定基準 → 引き続き存在する
- 150万円:19歳以上23歳未満の被扶養者の認定基準。2025年10月から130万円未満→150万円未満に引き上げ。配偶者は対象外
税金の側(配偶者の場合)
| 給与収入 | 控除の扱い |
|---|---|
| 123万円以下 | 配偶者控除の対象 |
| 123万円超〜160万円以下 | 配偶者特別控除で最大額を維持できる場合がある |
| 160万円超 | 控除額が段階的に減少 |
| 約201万6,000円以上 | 配偶者特別控除なし |
大事なのは、123万円を超えた瞬間に控除が消えるわけではないということだ。段階的に減っていく設計になっている。控除額は本人(納税者)側の所得によっても変わるので、正確な金額は国税庁の資料か税理士に確認してほしい。
学生についても補足しておく。学生は原則として短時間労働者の適用対象外だが、休学中・定時制・通信制などは対象になる場合がある。「学生だから社会保険は関係ない」と言い切ることはできない。
雇う側に回ると、この話は自分の業務になる
私は塾で教室長・チーフ教室長をしていて、25名の講師を管理・育成する立場だった。
このとき実感したのが、「シフトを組む」という仕事は、制度の制約の中でパズルを解く作業だということだ。営業として数字だけを追いかけていた頃には、想像していなかった種類の難しさだった。人手が必要なのに、入れられる時間に制約がある。この状態を経験すると、「壁」という言葉が抽象的な制度用語ではなくなる。
実際、講師から「収入の上限があるので、これ以上シフトに入れない」という相談を受けたことがある。学生講師も主婦の講師もいたので、税金の話だったのか、親や配偶者の扶養の話だったのか、社会保険の話だったのか——当時の私はそこまで確認していなかった。ただ「上限を気にして働く時間を抑える人がいる」という事実は、シフトを組む側として何度も向き合った。
そのときは「制度が複雑で面倒だ」くらいにしか思っていなかった。だが今回のように制度が変わると、その複雑さがそのまま自分の業務の難しさになる。人を雇う立場になったとき、この話は他人事ではなくなる。
制度の側から見ると、シフトを管理する軸は今後変わっていく。「年収の合計額」を見ていればよかったものが、「週あたりの時間」と「自社の従業員規模」で見る話になる。とくに2027年以降は自社が対象になる順番が回ってくるので、規模の小さい会社ほど確認しておく意味がある。
小売・飲食・介護のように短時間労働者の比率が高い業種では、企業側の保険料負担も増える。転職先としてこれらの業種を検討している営業職は、企業研究の視点に入れておくといい。人件費の構造が変わる時期にどう対応しようとしているかは、経営の考え方が見えるポイントになる。
→ 関連記事:転職で「入社後のギャップ」を最小限にするための企業研究の方法
転職の年収比較は、世帯単位でやる
ここが営業職にとって一番実用的な部分だと思う。
転職を考えるとき、私たちはどうしても「自分の年収がいくらになるか」だけを見る。求人票の額面を並べて、差額を計算して終わりにしてしまう。
でも家計は世帯で回っている。確認すべきなのは次の3つだ。
- 自分の額面ではなく手取りで比べる(額面が上がっても手取りの増加幅は小さい。仕組みは給与明細の読み方の記事で整理した)
- 配偶者側の働き方が変わる予定があるか(週20時間を超えるか、勤務先の規模はどうか)
- どちらも一時点ではなく数年先で見る(企業規模の基準は2027年以降下がっていく)
そのうえで、制度の判定は自分で暗算するより厚生労働省の社会保険適用拡大の特設サイトで確認する方が確実だ。制度は変わるが、公式資料は更新される。
転職を家族に相談するとき、この確認作業は具体的な話題として使える。「年収が上がるから転職したい」より、「世帯の手取りで計算するとこうなる」と話せる方が、話が前に進みやすい。
→ 関連記事:転職を妻・家族に相談するタイミングと伝え方|反対されないコツ
まとめ
この記事で伝えたかったことを整理する。
- 撤廃予定なのは賃金要件だけ。週20時間・2か月超・学生区分・企業規模の条件は残る
- 最低賃金の上昇により、106万円という基準はすでに事実上意識不要。10月に急変する話ではない
- 意味がなくなるのは「106万円以下に抑える就業調整」。ここは実質的な変化
- 手取りが減るかどうかは、加入前の状態で正反対になる。国保を自分で払っていた人は増える場合もある
- 週20時間だけで決まるのは2035年。それまでは企業規模との組み合わせ
- 社会保険の壁と税金の壁は別物。123万円を超えても控除は段階的に減るだけ
- 転職の年収比較は世帯単位・数年先まで見る
制度の解説そのものは、厚生労働省や社労士の資料の方が正確で詳しい。この記事で書きたかったのは、転職という「お金の条件を見直す機会」に、世帯単位で計算する習慣を持っておくと損をしにくいということだ。
営業として日々数字を追いかけていると、こういう話は後回しになりがちだ。私もそうだった。
※本記事は筆者の実体験をもとに作成しています。会社名・個人名・特定できる情報はすべて匿名化しています。制度の内容は2026年8月時点で公開されている情報をもとに整理したもので、施行日や基準は今後変更される可能性があります。実際の適用可否や保険料の金額は個別の状況により異なるため、正確な判断は勤務先の担当部署・年金事務所・社会保険労務士・税理士にご確認ください。
