AI時代に「なくならない営業」とは?5業界を渡り歩いた営業マンが考える生き残り方
2026-07-22 公開
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この記事はこんな人向け
- 「営業はAIに奪われる」という記事を見て不安になっている人
- 営業職としてのキャリアの将来性に迷いがある人
- AI時代にどんな営業スキルを磨けばいいか知りたい人
「営業職はAIに奪われる」
この手の記事を、最近よく見かけるようになった。AIが商談の議事録を書き、提案書を作り、顧客リストに自動でメールを送る。だから営業はいらなくなる——という論調だ。
正直に言うと、私はこの結論に半分同意している。なくなる営業は、たしかにあると思う。
ただ、予測記事の多くは調査データの引用で終わっていて、「じゃあ現場で実際に売れているのは何の力なのか」を書いた記事はほとんどない。私は木材商社・電機メーカー・営業代行・塾・イベント会社と、5つの業界で営業をやってきた。有形も無形も、法人も個人も売った。その立場から、AIに置き換わる営業と置き換わらない営業の境界線がどこにあるのか、実体験ベースで正直に書いてみたい。
予測データはどう言っているか
まず前提として、世の中の予測をざっと押さえておく。
米コンサルティング会社マッキンゼーが2020年に公表した分析では、営業業務のうち約3分の1は、当時すでにあった技術でも自動化できるとされている(出典:McKinsey「Sales automation: The key to boosting revenue and reducing costs」)。対象になりやすいのはデータ入力・レポート作成・定型的なアポ取りなどの「作業」部分で、同分析は自動化を「営業の置き換え」ではなく「営業を低付加価値な作業から解放し、顧客と向き合う時間を増やすもの」と位置づけている。より新しいところでは、ILO(国際労働機関)の2025年の調査も、生成AIの影響は「仕事の完全な置き換え」より「仕事の中身の変容」が中心になる可能性が高い、としている(出典:ILO「Generative AI and Jobs: A 2025 Update」)。
つまり、こうした調査が示しているのは「営業職が消える」ではなく「営業の中の"作業"が自動化されていく」という方向だ。ここまでは多くの記事に書いてある通りだ。
問題は、この「作業が消えた後に残る部分」を、自分が持っているかどうかだ。ここから先は、私の実体験で話す。
5業界で売ってきて分かった、「売れた理由」はいつも同じだった
私は4回転職して、扱う商材が毎回変わった。木材、家電、営業代行のサービス、塾の授業、イベントの企画。有形と無形の違いについては別記事で書いた通り、営業のやり方はまるで変わる。
それでも、振り返ると「売れた理由」はどの業界でも同じだった。商品を買ってもらう前に、自分が信頼されていたかどうか。それだけだ。
塾で実感した、「情報」と「信頼」の違い
一番わかりやすかったのは塾の教室長時代だ。
塾という商材は、お金を払う人(親)とサービスを受ける人(子ども)が違う。親には親の想いがあり、子どもには子どもの考えがある。そしてこの2つは、たいていズレている。私がやっていた仕事の核心は、授業の説明でもカリキュラムの提案でもなく、この親と子の想いの差を埋めることだった。それで信頼を積んだ結果、紹介が紹介を呼ぶ流れができた。
ここで考えてみてほしい。塾の料金体系・合格実績・カリキュラムの説明は、今ならAIでもかなりの精度でできる。でも、目の前の親の不安と、隣でうつむいている子どもの本音の間に立って、両方の気持ちを翻訳する仕事は、情報処理ではない。相手が「この人になら話せる」と思ってくれて初めて成立する仕事だ。
木材商社で知った、取引が終わっても残るもの
もうひとつ。私は新卒で入った木材商社を辞めてから約9年経つが、当時の上司とは今でも飲みに行く関係で、「いつでも戻ってきていい」と言ってもらえている。
これは自慢話がしたいのではない。言いたいのは、営業という仕事で積んだ信頼は、取引や雇用関係が終わった後も残るということだ。AIは商談を効率化してくれるが、辞めた会社から「戻ってきていい」と言われる関係までは作ってくれない。そして営業の紹介・リピート・口コミは、全部この「関係が残る」ところから生まれる。
正直に言う。AIに置き換えられやすい営業も、私はやってきた
きれいごとだけでは終わらせない。私の経歴の中には、AIやデジタルに置き換えられやすい営業も含まれている。
営業代行の時代、私は1日250件訪問する飛び込み営業をやっていた。量をこなすことで質が変わる「量質転化」を体で覚えたのはこの時期で、この経験自体は今でも財産だと思っている。
ただ、冷静に見れば「決まったトークで、大量のリストに、片っ端から当たる」という営業スタイルは、テレアポの自動化やAIによるリード選別に一番侵食されやすい領域だ。実際、リクルートの調査では、インサイドセールスの求人は2019年度からの3年間で1.71倍に増えた(出典:リクルート「新しい営業職」に関する調査)。背景として挙げられているのは、SaaSの拡大や営業の分業化だ。この構造はインサイドセールスへの転職を分析した記事でも書いた。
つまり私の実感はこうだ。
| AIに置き換えられやすい | 置き換えられにくい | |
|---|---|---|
| 仕事の中身 | 決まったトークを大量に届ける | 相手ごとに違う事情を聞いて設計する |
| 売れる理由 | 数を当てれば一定確率で当たる | 「この人だから」と選ばれる |
| 積み上がるもの | その月の数字 | 取引が終わっても残る関係 |
| 私の経歴で言えば | 1日250件の飛び込み時代 | 親子の想いの差を埋めた塾時代 |
注意してほしいのは、これは「テレアポ営業をやっている人はダメ」という話ではないことだ。私自身、量の営業で基礎体力がついたから、その後の提案型の営業ができるようになった。問題は、量の営業"だけ"を10年続けてしまうこと。積み上がるものが「その月の数字」しかないと、AIとの競争に巻き込まれたとき、履歴書に書けるものがなくなる。
では、何を磨けばいいのか。私の答えは3つ
評論で終わらせず、明日から何をするかまで書く。5業界を経験した私が「これはどの業界でも通用したし、AIだけで再現するのは当分難しい」と考えるものは3つある。
1. 相手の「言っていないこと」を聞く力
AIは質問されれば答えられるが、目の前の相手が「本当は何に困っているのに、なぜそれを言わないのか」までは、なかなか踏み込みにくい。塾の親子面談で言えば、親が語る「成績を上げてほしい」の裏にある本音。ここに触れられるかどうかで、提案の刺さり方がまるで変わる。
私はもともと「相手に踏み込んで話す」のが一番苦手だった。それでも営業代行時代に場数を踏んで、ある程度できるようになった。生まれつきのセンスではなく、鍛えられる力だ。
2. 社内外に「人間の信頼」を積む力
営業の仕事は、顧客との商談だけではない。納期を調整してくれる工場、無理を聞いてくれる仕入先、フォローしてくれる事務方——社内外の人が動いてくれるかどうかで成果は大きく変わる。ここは今も人間の関与が大きい領域だ。
信頼の積み方に奇策はない。頼まれたことを必ずやる。相手がやりやすいように一手間足す。私が5社でやってきたことは、突き詰めればこれだけだ。地味だが、この積み重ねの総量が「AIに代替されない営業」の正体だと思っている。
3. 自分の経験を「言語化」して語る力
転職市場の話をすると、AI時代の面接で評価されるのは「何件やったか」より「なぜ売れたのかを自分の言葉で説明できるか」だ。実績の整理や説明資料づくりはAIが手伝ってくれる時代になるが、「私はこういう場面で、こう考えて、こう動いたから売れた」という一次体験の言語化は、その人にしかできない。
自分の営業経験をどう棚卸しして市場価値につなげるかは、営業職の市場価値を上げる3つの習慣で詳しく書いている。
まとめ:AIがなくすのは「営業職」ではなく「信頼を積んでこなかった営業」
- 調査が示しているのは「営業が消える」ではなく「営業の中の作業が自動化されていく」
- 5業界で売ってきて、売れた理由はいつも同じだった。商品の前に自分が信頼されていたか
- 量で稼ぐ営業は置き換えられやすい。ただし量の経験自体は無駄ではなく、そこ"だけ"に留まるのが危険
- 磨くべきは、言っていないことを聞く力・人間の信頼を積む力・経験を言語化する力
「営業はAIに奪われるか」という問いは、主語が大きすぎる。奪われるのは職業ではなく、仕事のやり方だ。逆に言えば、信頼で選ばれる営業になれれば、AIはむしろ作業を肩代わりしてくれる味方になる。
不安を煽る記事を読んで焦る時間があったら、明日の商談で、目の前の相手の「言っていないこと」をひとつ聞いてみてほしい。AI時代の営業の生き残り方は、たぶんそこから始まる。
※本記事は筆者の実体験をもとに作成しています。会社名・個人名・特定できる情報はすべて匿名化しています。
